糖尿病に罹患した患者さまにみられる合併症のひとつです。糖尿病をいつ頃から発症しているかを明確にわかる術はありません。そのため、糖尿病の発症を確認した時点で、眼症状が何もなかったとしても定期的に眼科を受診されるようにしてください。
そもそも糖尿病とは、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)が慢性的に高くなってしまう状態を言います。ブドウ糖は、本来であれば細胞に取り込まれ、脳などのエネルギー源となります。ただ、その際には膵臓で作られるホルモンの一種であるインスリンの分泌が不可欠となります。このインスリンが何らかの原因によって、分泌されない、分泌量が不足している、分泌量が十分でも効きが悪いとなると細胞に取り込まれないまま、ブドウ糖は血液中でダブつきます。これが血糖値を慢性的に上昇させ、糖尿病を発症するようになるのです。
なお糖尿病は初期の頃は自覚症状がないので、病状が進行しやすくなり、その後、ある程度まで進むと頻尿・多尿、のどの異常な渇き、体重減少、全身の倦怠感などがみられるようになります。それでも放置を続けると血管障害が起きるようになります。とくに細小血管はダメージを受けやすいのですが、網膜はそれらが集中しています。このように合併症を引き起こしやすいことから、糖尿病網膜症は糖尿病三大合併症(残りの2つは、糖尿病神経障害、糖尿病腎症)のひとつに数えられています。
この糖尿病網膜症も糖尿病と同様に発症初期は自覚症状がなく、放置を続けると血管障害が起き、次第に網膜の血管が詰まるなどします。これによって脆い新生血管が発生し、同血管が破れるなどすれば、硝子体出血がみられるようになります。ここまで進行すると、かすみ目、飛蚊症、視力低下などの自覚症状がみられるほか、最悪な状態になると失明することもあるので注意が必要です。
主に網膜の状態や血管を調べられる眼底検査、網膜の中心である黄斑部をチェックできる光干渉断層計(OCT)を用いるなどして診断をつけていきます。
同疾患は、大きく3つの病態(単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症)に分けられます。この3つの中のどの状態にあるかによって治療内容は各々違っていきます。具体的には以下の通りです。
単純糖尿病網膜症は、糖尿病網膜症の初期になります。自覚症状はなく、この時点では糖尿病網膜症による特別な治療というのはありません。糖尿病患者さまが行っている血糖コントロールの治療が中心となります。
病状の進行が中期にあたる状態が増殖前糖尿病網膜症です。この場合、網膜の虚血がみられることもありますが、血糖コントロールの治療のみで充分というケースもあります。ただ、血流が途絶えたとされる網膜血管から新生血管が発生する可能性が高いと医師が判断した場合は、あらかじめレーザーで網膜を凝固させます(レーザー光凝固術)。
増殖糖尿病網膜症は進行期にあたるものです。この状態にあると新生血管が発生しやすいのでレーザー光凝固術(網膜光凝固術)を行っていきます。また新生血管が破れて硝子体内で出血が大量にみられた、牽引性網膜剥離が起きているとなれば、硝子体手術(血液で濁った硝子体を取り除く 等)が行われます。
きている状態を加齢黄斑変性と言います。同疾患は50歳以上の男性に発症しやすいとされ、加齢のほかにも喫煙、日頃の食生活、紫外線にさらされ続ける(紫外線曝露)などもリスクの要因に挙げられます。
よくみられる症状ですが、ゆがんでものが見える(変視)、見ようとしている中心部分が暗く見えてしまうということがあります(中心暗点)。さらに病状が進行すると視力低下もみられるようになり、この場合、黄斑部の中心にあたる中心窩が変性すると急激に下がるようになります。
なお加齢黄斑変性は、2つのタイプに分けられます。ひとつは滲出型と呼ばれるもので、網膜の外側にある脈絡膜にある毛細血管から新生血管が発生し、それが網膜下まで伸びていくようになります。同血管は非常に脆いので、破れてしまう、あるいは血液成分が漏出するなどしていきます。それによって網膜浮腫や出血などを引き起こし、これらの影響等で視細胞が障害を受けてしまうと上記のような症状(変視、中心暗点 等)がみられるようになります。もうひとつは萎縮型と呼ばれるものです。この場合は、新生血管が発生することはありません。網膜色素上皮と呼ばれる部位に萎縮がみられます。この萎縮が視細胞を減少させるようになります。中心窩に影響が及ばない限りは、視力低下などの症状はみられません。なお萎縮型は、現時点では治療法が確立していません。また滲出型のような状態になるまでには時間がかかるとされています。ただいつその状態に陥るかは不明なので、一定の間隔で通院し経過観察をする必要があります。
視力検査、アムスラーチャート(碁盤の目のような模様を見続け、ゆがんで見えるか等をチェックする)のほか、眼底検査で網膜の状態を確認していきます。また光干渉断層計(OCT)で新生血管の状態や網膜浮腫の程度を調べるなどを行います。
ここで説明する治療法は滲出型になります。治療の目的は、新生血管の増殖を防ぐ、退縮させることです。主に薬物療法とレーザー療法があります。
薬物療法とは、新生血管を退縮させる効果があるとされる抗VEGF薬を注射にて、直接眼球へ注入していく抗VEGF薬硝子体注射になります。施術前に点眼麻酔をしてからの注射となります。注射時に痛みは出にくいと言われています。なお同注射は1回のみでなく、1ヵ月程度の間隔を空けて打つ必要があります。その後は、経過などを確認し、医師が必要と判断すれば、さらに打つことがあります。
レーザー治療は、新生血管をレーザーで焼き潰すために行います(網膜光凝固術)。なお新生血管が中心窩に達しているのであれば同治療は選択されません。
このほか場合によっては、光線力学療法(PDT:特定の光にだけ反応する薬剤を点滴し、その薬剤が含まれた新生血管に向けて出力の弱いレーザーを照射していく)を行うこともあります。